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医療ニュース 2008/7/30
終末期医療「胃瘻や人工呼吸器は希望しない」が9割超
自分が終末期を迎えても、胃瘻や人工呼吸器は着けないでほしい――。そう考える患者が9割を超えていることが、国立長寿医療センターの調べで明らかになった。この調査は、国立長寿医療センター病院に外来通院中の患者が提出した 「私の医療に対する希望(終末期になったとき)」という書類の内容を集計したもの。胃瘻や人工呼吸器は希望が少ない一方で、点滴については3割の患者が希望しており、処置の種類によって希望する患者の割合が異なることも分かった。 6月19日から千葉県で開催された第50回日本老年医学会学術集会で、国立長寿医療センター第1外来総合診療科医長の三浦久幸氏が発表した。同院では昨年5月から、終末期に患者本人の意思をできるだけ尊重したいとの考えから、 元気なうちに希望者に上記の書類(いわゆる「終末期の事前指示書」)を記入させ、それを院内で保管するという試みを始めている。この「事前指示書」は、本人が終末期に意思疎通困難になったときに取り出し、その内容を参考にしながら、 医療者と家族等の代理人とで治療方針を検討する考えるという仕組みだ。事前指示書を病院に提出できることは、院内の掲示板などで案内しており、国立長寿医療センター通院中の高齢者(年齢制限なし)なら誰でも提出できる。 提出した内容は後から何度でも変更可能だ。今回の調査対象となったのは、2007年5月から08年5月末までの1年間に提出された64人分の事前指示書で、この期間に関心を持って資料を持ち帰った患者は200人以上に上ったという。 64人分の指示書から、終末期になったときの延命処置に関する希望をまとめると次のようになる。「点滴による水分補給」以外の処置は、いずれも9割超の患者が希望していなかった。終末期の疼痛緩和やセデーションについては、希望する患者が比較的多いが、 希望しない患者もいた。具体的には、「できるだけ痛みを抑えてほしい」と回答した患者は70.3%で、そのうち「必要なら鎮静薬を使ってもよい」としたのは62.5%だったが、一方で18.8%の患者は「(鎮痛薬などを使わずに)自然なままでいたい」と回答していた。 三浦氏は、「疼痛緩和や延命処置に関する希望は、必ずしも『all or nothing』ではなく、どのような処置を希望するかは人によって大きく違っている。患者個々に細かな希望を聞くことができる体制を作ることがことが重要だ」と話している。 この事前指示書では、終末期の処置以外に、「最期を迎えたい場所」についても希望を聞いている。今回の64件では、最期を迎えたい場所として「病院」を選択した患者が48.4%と最も多く、「自宅」は7.8%、「施設」は0%で、「病状に応じて」を希望したのが39.1%だった。 「病院での死を望む患者が多かったことは意外だが、対象が外来通院中の患者なので、『最後まで今の主治医に診てもらいたい』と考えているのではないか。在宅医療の現場などで調査すれば、また結果は変わるだろう」と三浦氏は分析する。 三浦氏は、事前指示書の受け付けを始めてからの1年を振り返って、「どのような反応が起こるか未知数だったこともあり、おそるおそる試験的に行ってきた。そのせいか、提出数は当初の予想より少なく、 自発的に意思を残そうという思いの強い人だけに絞られている可能性がある」と話す。今後は、事前指示書をさらに普及させるべく、各科の主治医を通じて声かけをしていくとともに、これまで通院患者だけだった対象者を、退院する入院患者や地域の診療所の患者にも広げていく考えだ。 この7月には、スタートからわずか3カ月で、後期高齢者医療制度の「終末期相談支援料」が凍結されたが、現実には、終末期の処置などに対する患者の希望が多様化しており、医療や介護の現場では「事前指示書」のニーズは日に日に高まっている。 その一方で、既に実施しているところでも、施設や医師によって説明の仕方や項目立てはバラバラで、患者がきちんと理解した上で希望を表明しているのか、疑問視する声もある。 「相談支援料」による経済誘導策が一度白紙に戻った今、長寿医療センターのような先駆的な試みを参考にしながら、現場から適切な形で事前指示書を普及させるための新たな方策を検討する必要があるのではないだろうか。